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「世界は分けてもわからない」 福岡伸一 2

awanohibi

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第8章から第12章にわたっては、科学史上でも有名な捏造事件について、ノンフィクションの手法で描いています。コーネル大学のエフレイム・ラッカー教授の研究室にやってきたマーク・スペクターという若い天才ポスドクの数々の「大発見」。彼らの発表した論文の締めくくりには「長い間、待ち望まれていたこと、つまり生化学と分子生物学がここに融合したことを目撃したのである。」と記述するほどの画期的な大発見のストーリーが紹介されていくのですが、物語は思わぬ方向へと展開します。大雑把にいうと、ラッカー教授が思い描いた仮説にそうように弟子のスペクターがたくみな偽装実験をやってしまったということなのですが、スペクターの実験の手際のスマートさの叙述や、さまざまなタンパク質の分離の方法の実際など、この4つの章だけでも一つの「読み物」として成立するほどです。しかしこの一見「挿話」と見える部分が「世界は分けてもわからない」という本の主題の中にみごとにはめ込まれていて、この本の説得力と魅力を大きくしています。
IMG_1949-side_convert_20200323154418.jpg上はこの本の目次です。講談社の「本」という雑誌に連載していたということもあるかもしれませんが、各章のタイトルがすごくうまいですね。それから各章の冒頭にあるエピグラフが、また引きつけます。
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これは「第10章 スペクターの神業」でのエピグラフです。文学部の学生でも、あまり知らないような詩人丸山薫を引いてくるとは、福岡さんは、いったいナニモノなのでしょうか。これ以外にも、エピグラフの著者を拾うだけで、面白いビブリオテークができるほどです。そして最後には、エピローグの格調の高さ‥‥
これから一億年後、誰かが北の空を見上げたなら、そこにはいくら探してももはや北斗七星はない。それに対向する優美なカシオペア座もない。まわりの星たちの明度が変化したからではない。平衡が変化したからである。時間の関数としての。星たちはそれぞれの運行法則にしたがって徐々にその軌道を変え、あるいはことによると燃え尽きているかもしれない。しかし、同じことは明日、私たちが北の空を見上げても言いうることなのだ。 明日の空は、今夜の空と同じではない。そこには新しい均衡がなりたっている。くるくると変わる私たちの浅知恵に比べ、星たちの運行が優しいまでに緩慢であるがゆえに、私たちはただ安逸でいられるに過ぎない。page272
ふつう、新書本や文庫本に美しさは求めないと思うのですが、文章、各章のタイトル、エピグラフ、エピローグまで、美しい本です。10年以上も前に出版された本ですが、いまさらながら手にとってよかったです。

「世界は分けてもわからない」 福岡伸一 2009年7月発行 講談社新書 2000

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最終更新日2020-03-26
Posted by awanohibi