これだけは知っておきたいマスコミの大問題〜メディアと戦争
2021年04月21日
先月読んだ本の中で印象に残った「池上彰・森達也のこれだけは知っておきたいマスコミの大問題」です。何ヶ所か抜粋引用で紹介します。まずは「メディアの力」という章の冒頭部分で「そういえばそうでしたね」という話ですが、「メディアと戦争」についての一節です。
司 会
1945年の敗戦に至るまで、日本の国民は軍部や政治家、そしてマスコミにも煽られ、騙されていたと言われてきました。
森 達也
半分は正しいけれど、マスコミが煽った理由は、国民が喜ぶからです。マーケット(国民)の支持がなければ、メディアは煽りません。 結果としては国民が煽られることを望んだのです。煽り煽られという相互関係が前提です。
池上 彰
メディアが視聴者や読者を増やすのは戦争報道です。日本放送協会というラジオ専門の放送局が戦前にありました。昔はラジオの受信機を持っている人は限られていて、受信機を持っている人が聴取料というのを払って、日本放送協会はその聴取料で成り立っていたのです。
日中戦争を報道すると、出征しているうちのお父さん、うちの夫、うちの息子たちは中国戦線でどうなっているのかと案じている人たちが聴きたがる。日中戦争の戦況を刻々と伝えるから、みんなラジオを持って、聴取料を払い、ラジオが普及していったのです。 それからいろいろな新聞が突然、イケイケドンドンになり、日本は中国大陸で勝っている、勝っていると囃し立てることによって部数が 爆発的に増えていきました。戦争報道によって、メディアは部数を伸ばしてきたのです。
これは今も変わっていません。アメリカで1980年にCNNという二四時間のニュース・チャンネルができたときは、「誰が見るんだ、こんなものは?」と言われました。実際、最初は苦戦していました。それが1991年に湾岸戦争が始まって、アメリカ兵が派遣される、あるいはピーター・アーネットが現地から伝えるということになって、CNNの視聴者が爆発的に増えていく。そこでCNNはようやく経営的に安定したのです。
森 達也
日本だけじゃない。メディアと戦争はずっと蜜月です。
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戦争に限らず、内戦、軍事クーデターを含め、武力による支配を進めるうえで、最重要の攻撃目標は放送局です。情報を武器とするメディアを物理的、組織的に制圧することが、戦争を遂行するうえで「キモ」です。権力は、民衆が「真実」を知ることを最も怖れます。
一方で、国民が知りたい「真実」を追求し、取材し、伝えることで、メディアは国民から「信頼」を得て、「信頼」は新たな「力」を獲得します。この「力」が「第四の権力」といわれるほど大きくなる状況が生まれます。メディアが自律的に、「自己点検」、「自浄作用」を利かせている限り問題はないのですが、この機能が不全になると「権力腐敗の原則」により、メディアの自壊が始まります。(とりあえず、きょうはココまで ^ ^ )
池上彰・森達也のこれだけは知っておきたいマスコミの大問題 現代書館 2015年

池上彰[イケガミアキラ]
1950年、長野県松本市生まれ。ジャーナリスト・東京工業大学教授。73年、NHK入局。報道記者として松江放送局、呉通信部を経て東京の報道局社会部へ。「週刊こどもニュース」でお父さん役を務め、わかりやすい解説で人気を博する。2005年に独立
森達也[モリタツヤ]
1956年、広島県呉市生まれ。映画監督、作家。明治大学情報コミュニケーション学部特任教授。テレビ・ドキュメンタリー作品を多く製作。「A2」では山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。2011年、『A3』(集英社インターナショナル)で講談社ノンフィクション賞受賞