これだけは知っておきたいマスコミの大問題〜マスコミと「国益」という言葉
2021年04月23日
メディア同士が切磋琢磨するのは健全な競争ということでよいのでしょうが、どの業界もそうですが、同業他社の失敗やトラブルは「蜜の味」で、必要以上に取り上げてしまうものです。そういう背景があるとはいえ、他社の報道に対して「国益」ということばを持ち出して批判した「一部のメディア」の「不見識」を叱る池上さんのことばは、至極もっともです。
しかし、この事例は、日本の報道機関のレベル低下を示す象徴的な話でもあります。
「メディアの力」の章からの引用です。池上さんの発言部分だけの引用です。
池上 彰
今、メディアではさかんに「国益、国益」と言うでしょ。朝日の従軍慰安婦に関する報道について、「国益に反する」という言葉をほかのメディアが使うのは、天に唾する行為だと思います。国益を意識して、大切にしろとメディアが言い出したら、どうなるでしょうか? そもそも、その「国益」というのはいったい何でしょう? ということこそ、まず考える必要がある。
このことを考えるために重要な歴史的事件があります。かつて、ケネディ政権ができたばかりの頃に、CIAがキューバの亡命者を使ってキューバに攻め込ませる、ピッグス湾事件というのが1961年に起きました。あのとき、『ニューヨーク・タイムズ』は一週間くらい前に、その作戦の存在を嗅ぎ付けて書こうとしたら、政府から「国益 に反するからやめてくれ」と圧力を受けて、結局、書かなかったのです。その結果、ピッグス湾事件が起きて、CIAが支援していたキューバの亡命者部隊があっという間に負けて、作戦は大失敗、政権への評価もボロボロになりました。そのときにケネディは、この侵攻作戦について「私は知らなかった」と言った。実際に、ケネディが大統領になる前から進んでいたプロジェクトでした。そして、「もし『ニューヨーク・タイムズ』が報道してくれていれば、こんなことにはならなかったのに」と、ケネディは言ったのです。それ以来、『ニューヨーク・タイムズ』は「国益」という言葉に大変神経質になりました。政府にとって何か不都合なことを報道しようとすると、必ず政府は「そんな報道は国益に反する」と言ってくる。しかし、だからこそ、その報道が本当に国益に反するかどうかは、我々が考えなければいけない、と考えるようになったのです。ピッグス湾事件の経験があったから、ベトナム戦争の発端となったトンキン湾事件に関する極秘報告書、ペンタゴン・ペーパーズを入手したときも、国益に反するから掲載をやめろと言われたけれど、それをはねつけて報道しています。
メディアは国益を意識し始めたらおしまいなのです。事実を伝えることがメディアの役割です。
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「政府が『右』と言っているのに我々が『左』と言うわけにはいかない」などとトップが発言するような放送局は「論外」ですが、調べてみると、この発言は2014年の1月のことなのですね。時代の流れは早いとはいえ、そんなに昔のことに属するとはいえません。この放送局もともと問題だらけの組織ではありましたが、最近その自壊スピードがスゴイことになっていますね。放送内容だけでなく、アナウンサーのことばまで「ヤバく」なってきました。教育テレビだけ編成方針とセットでチャンネル維持して、ほかは1日も早く停波解体した方がいいですね。
とりあえず、それがいちばん「国益」にかなうと思います ^ ^
池上彰・森達也のこれだけは知っておきたいマスコミの大問題 現代書館 2015年

池上彰[イケガミアキラ]
1950年、長野県松本市生まれ。ジャーナリスト・東京工業大学教授。73年、NHK入局。報道記者として松江放送局、呉通信部を経て東京の報道局社会部へ。「週刊こどもニュース」でお父さん役を務め、わかりやすい解説で人気を博する。2005年に独立
森達也[モリタツヤ]
1956年、広島県呉市生まれ。映画監督、作家。明治大学情報コミュニケーション学部特任教授。テレビ・ドキュメンタリー作品を多く製作。「A2」では山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。2011年、『A3』(集英社インターナショナル)で講談社ノンフィクション賞受賞