「神話」「呪術」 プラス・ラブ

2021年10月23日
書棚の整理
本能ということばが使われるのは、どうも反ー文化的、非ー人間的な場面であることがほとんどです。本能ということばで何かを理解したり解決したがる人間も、ほとんどが反ー文化的で、非ー人間的です、、と極め付けたくなることがあります。
生物学辞典第4版(1996年岩波書店)での「本能」の説明では、
「動物が練習も模倣も必要とせずに行い、繁殖や個体維持の目的に適応した行動ないしその原動力となるべきものをいう語、」と記述してますが「人によって用い方もちがい、定義は極めて困難である」と強調しています。
ということで「本能」は科学的に不明確なことばだということをおさえた上で話を進めると、粗雑なヒトビトがよく使う○○本能の一つに「母性本能」と呼ばれるものがあって、これは「メスの個体が子(次世代)を守り育てる現象や行動」を「本能」に由来するものだとみなしてしまえということでしょう。
ことばは、人間の感覚器(いわゆる五感)で認知される現象、事象を指し示し他社と共有すために生成される場合と、その反対に、実際にはそこにないものをあるように信じ込ませる呪術的な作用を目的に生成される場合があります。
20世紀後半の知は、社会でいわれる「母性本能」なることばは「呪術」に属するものであることを認定しました。しかし神話や呪術は、なかなか強固なものです。
21世紀の世界にあっても、地動説や進化論を受け入れない国民が一定数存在する世界一の強国があります。共産党一党独裁の資本主義大国があります。馬鹿で嘘つきな指導者だとわかっていても同調してしまう不思議な島国もあるわけです。したがって、神話や呪術に過ぎないからといって安心していられないということです。>>!!前置きはココまで
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エリザベート・バダンテールの「プラス・ラブ」はフランスで1980年に出版され、邦訳は1981年12月に出ています。
近世以降のフランスでの母と子供の関係について、古い文献を検証しながら、母と子供の関係が、「本能」的な関係ではないということを示していきます。
1780年の警察庁長官の報告書によると、
この年パリの家庭に生まれた子供21,000人のうち、90%がパリから離れた農村の乳母の手に委ねられた。10%はパリ市内で養育されるが、貴族や金持ちなど住み込みの乳母に育てられるのが5%、産みの親に育てられるのが5%
近郊の乳母のもとで育つ子は産みの親と会うこともなく、親たちには子供に会いたいという感情がなく、子供が途中で死んだとしても悲しむこともなかったということです。(Page64ほか)
親子(とりわけ母と子供)の感情(愛情)が「本能」に由来するとしたら、これは説明がつきません。母と子の愛情は、授乳や育児というプロセスで発生するものと考えるべきで、後発的な感情です。それは授乳や育児というプロセスを介するなら乳母と子供の関係においても発生する感情でもあります。
自然状態の母親は乳を出したいという欲求を繰返しおぼえ、それで赤ん坊に吸わせる。行為が反復されることによって、子どもとの定期的な接触という習慣が生まれる。そしてこの習慣から、母親の愛情が生まれる。
(中略)もし乳がたまらなかったら、母性愛はどうなるのだろうか。(Page177)

母→子供の愛情は、本能ではなく環境(具体的には時間と空間と接触頻度)の作用によって出現する。今どき誰も驚かないことですが、この本の出版は女性の解放が社会的な大テーマとして広がりを見せていた時代とも共鳴して注目されました。
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母親が育児にエネルギーを(時には人生を)かけるようになった背景には、思想的にはジャン・ジャック・ルソーの「エミール」(1762年)の影響、近代では母親を家庭の中心に位置付けたフロイドの精神分析の普及などがあり、ルソーとフロイドは、この本でも批判の対象となっています。
さらには、子供の死亡率をさげて人口を増やすことが国家的要請となったことも大いに関係しています。とりわけ帝国主義の国家では、侵略戦争のための戦力向上と富を産み出すための労働力確保という産業政策のなかで強化流布された呪術だったのでしょう。
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おそらく「神話」の時代が完全に終焉し「呪術」が一掃される日はこないのでしょう。このての「呪術」にからめとられた人たちから「呪い」を解くことは、なかなかできるものではありません。変異しながら生き続けるウィルス相手に、その都度ワクチンを開発するような忍耐と時間が必要です。
とはいえ人間の半分は女性で、そこに「呪い」がかけられているとしたら女も男も手を携えて忍耐づよく「呪い」に立ち向かうしかありません。

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awanohibi
Posted by awanohibi
アラ還白髪男子の身辺雑記たまに妄想&毒想