初めて買った「新書」について
2021年11月08日
1977年の10月のある日、札幌市民会館で講演会がありました。札幌商科大学という大学に新たに人文学部ができて、その開設記念講演会の講師として来ていたのが中根千枝さんでした。
この講演会の前に「予習」として買ったのが、私の生涯初めての新書本「タテ社会の人間関係」(中公新書220円)でした。いわゆるベストセラーで、日本の社会や組織を考える上で鋭い分析をしていて、ロングセラーの名著でもあります。これと友人から借りた「未開の顔・文明の顔」(角川文庫)を読んでから、学校帰りに講演会場に行きました。
講演は、社会構造分析の専門的な内容ではなくて、社会人類学ってどんな学問なのか、そして北インド方面でのフィールドワークでの逸話などが中心でした。市民向けということでしたので、もしかしたら「予習」など必要はなかったのかもしれません。でも、結果的には文学系、哲学系以外の本を手に取る「きっかけ」をもらうこととなりました。
ちなみに「タテ社会」という用語は(この講演でも話してましたが)、中根千枝さん自身がつくった用語ではなくて、中央公論社の編集者による造語だそうです。論文の内容から抽出した結果「タテ社会の人間関係」というタイトルとなって出版されたというエピソード。当時の編集者の読解力、言語感覚、編集センス、プロだからといえばそれまでですが、いま考えると敬服します。
1970年代は、戦後以来の日本人論ブームの中にありました。「タテ社会の人間関係」は1967年の出版ですので、70年代のブームの先駆け的なものだったのでしょう。その後1971年「日本人とユダヤ人」イザヤベンダサン、そして1978年「モラトリアム人間の時代」(小此木啓吾)くらいまで、いま考えると自分が日本人になる前に、書物で日本人について学んでいたような気がします。大学に行ってからは社会科学系から次第に遠ざかっていき「日本」とか「日本人」への興味もなくなりました。

とはいえ、家にテレビもないのに、こんなテキストも買って読んでいました。

札幌市民会館での講演会は単発の市民講座的なものでしたが、何人か高校生らしきやつらも来ていて、会場で知り合うこととなった何人かとは、その後、死ぬまで付き合いが続くことになりました。(ワタシはまだ生きてますが、)
女性初の東大教授、女性初の学士院会員など中根千枝さんには、そんな社会的なさきがけとしての紹介が先行しますが、個人的には、不定形の好奇心で収拾がつかない44年前の高校生に社会科学という科学の視点、アプローチを教えてくれた大事な先生です。10月12日、94歳でお亡くなりになったとのことです。