Welcome to my blog

「増大派に告ぐ」を読んでみた

awanohibi

awanohibi

-

北海道新聞の日曜版で「トヨザキ社長の鮭児書店」という書評コーナーがあるのですが、ここで書評家の豊崎由美さんが「激賞」している作品がありました。「増大派に告ぐ」小田雅久仁 2009年に出版されたものです。「辛口書評家」に激賞された作品を読んでみました。

2C1E0637-7696-48EF-B6E1-79252BC0494D_convert_20211130144156.jpeg

「ファンタジー」という言葉では、なにも説明したことにはならないのですが、タイプとしてはディストピアの物語です。

「増大」の意味は「エントロピーの増大/減少」に関する「増大」ということです。わたしたちの世界は「自然状態で放置した場合、必ず無秩序へ、さらには破壊、崩壊の方向へ向かう」という「エントロピー増大の法則」に支配されているわけですが、それにあらがってエントロピーの「減少」をめざす「減少派」たちが、世界を支配している「増大派」に追われ、攻めたてられながら物語が進んでいきます。ということですから、もちろんハッピーエンドとはなりません。


感心したというか引き込まれる大きな要素になったのが、道具立て、仕掛けが、みょうにファンタジー離れしているというのか、現実っぽいところです。巨大団地、家庭内暴力、不義の子、離婚、不良少年、ホームレスなどなど、なつかしい戦後、、というか昭和ニッポンの風俗、風景が幾重にも並んでいます。

さらにすごいのが、作者の筆力、描写力。


もし神が人間から嘘をつく能力を奪ったとしたら、人類は一年ともたずに滅亡するだろう。薄い皮膚の下に辛うじて閉じこめられていた全人類の諸々の悪感情が溢れ出し、濁流となって世界を駆け巡るだろう。どんな慈愛に満ちた方舟もけっして浮かび続けられないような濁流だ。が、もしかしたらほんのひと握りの人間だけは生き残るかもしれない。神にすら嘘を奪えなかった天性の嘘つき。悪の泉から直接その能力をすくいとった真の嘘つき。他人はもちろん、自分自身のことすらまんまと騙しおおせる嘘つきの中の嘘つき。(中略)そいつらは嘘を交わしながら交接し、ふたたび嘘つきの子孫を残すだろう。そして、 その子孫たちは、それがダーウィンが語った自然の選択であり進化であるかのようにさらに欺瞞に満ちた世界を造りあげることだろう。真実を語ることが即、死を意味するような世界、真実を見つめることが即、落伍を意味するような世界だ。


まるで、安部公房の長編のなかで出てきそうな描写です(こういう賞め方はまずいですね)。「増大派に告ぐ」は、この作者のデビュー作ということですが、既にこの作品の時点で作家としてかなり高いレベルで完成しています。

かつてフランスでピエール・モリオンなる作家の「閉ざされた城の中で語る英吉利人」という小説があったのですが、あまりにもスゴイ作品だったもので、ピエール・モリオンってなにもの?と話題になったことがあります。でも、じつはこれ、アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグが「変名」で出した作品だった、なんてことがありました。「増大派に告ぐ」も、すでに大家といわれる作者が、あえて別の名前で出したのではないかと思うほどの作品のクオリティ!!むむ、これも、賞めているように見えない??

いやいや、、すごい作家、すごい作品です。

dde.jpg

増大派に告ぐ 小田雅久仁 2009年11月 新潮社


ご訪問いただき ありがとうございました。
にほんブログ村 その他日記ブログ のほほんへ
にほんブログ村 
最終更新日2021-11-30
Posted by awanohibi